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従軍慰安婦の問題が、米下院の決議案をきっかけに世界に波紋を広げている。政府は、誤解があればそれを全力で解かなければならない。同時に新たな誤解を招かないようなメッセージをきちんと発しなければならない。
与野党議員が共同で出した決議案は、
従軍慰安婦を「軍の強制売春」としたうえで、日本政府に「明確な形で歴史的な責任を認め謝罪する」よう求めている。
韓国系米国人の組織が議会に働きかけを続けていた。共和党多数の時はなかなか受け入れられなかったが、昨年の中間選挙で「人権」に敏感な民主党が多数を握って流れが変わった。女性のナンシー・ペロシ議長も同情的で、可決されそうだ。

従軍慰安婦はもともと、一九九〇年代初めの「日韓」の問題だった。紛糾の末に当時の河野洋平官房長官が出したのが「心身にわたり癒やしがたい傷を負われたすべての方々に対し心からおわびと反省の気持ち」を表す談話だ。
その後も村山富市、橋本龍太郎、小泉純一郎らの歴代首相が謝罪している。民間で設立された「アジア女性基金」に資金協力することで、元慰安婦への実質的な償い事業もしてきた。

これで謝罪は済んだ、と政府はみていた。それを踏襲して安倍晋三首相も、国会では「決議がされたからといって、新たにわれわれが謝罪することはない」と答弁している。
ただこの答弁は、多くの人を刺激した。韓国や中国から激しい批判があった。米英の有力紙からの論評も手厳しかった。
それは安倍首相が就任前、河野談話に否定的だったこととかかわるだろう。「強制性はなかった」などの言い方が、開き直りと受け取られた可能性がある。
しかし「歴史にほおかむりする日本」とのイメージが米国発で世界に振りまかれてはたまらない。
ここはきちんと対処したい。外務省はニューヨーク・タイムズに反論投稿の準備中だ。公式謝罪の事実などこれまでの経緯を伝え、無用な誤解は解きたい。
同時に首相も、河野談話の継承をより鮮明にしてほしい。首相はきのう、自民党議員有志に談話の前提になった資料の再調査に協力する考えを示したが、今の流れでは「見直しありき」とみられよう。
やるなら韓国の研究者にも呼び掛けて開かれた調査をしてはどうか。それなら世界も納得する。
中国新聞 平成一九年三月九日